「美女と野球」リリー・フランキー

ああ、またやってしまった。
満員電車の中、両手で持った文庫本で顔を隠すようにしながらも、なんだか肩がプルプルふるえている。そう、「一人笑いこらえ」である。
たとえば学校の授業中なんかもそうだったんだけれど、笑っちゃいけないときにこみ上げる笑いというのは格別に甘美な極上の快楽である。
さて、今回そんな幸せをもたらしてくれたのは、エッセイ集「美女と野球」の中の一篇「シンクロ鬼コーチ」である。
始めに言っておくが、下品だ。汚い。
そうした笑いを好まない方は、避けて通られたほうが賢明と思う。
しかし、たとえこっそりとでも、そうした笑いを受け入れる心があるのであれば是非、まずはこの一篇だけでも読んでみて頂きたい。
以下、汚いのを覚悟で簡単な導入あらすじを書きます。
カレー屋のトイレに入って、用を足して水を流したら、ゴボゴボと汚水が逆流する。そこから大慌ての展開になるのだが、この描写が素晴らしい。巧みな比喩とスピード感、まるで極上のサスペンスのよう・・・だがあくまでカレー屋のトイレである。スリル以上に笑いが炸裂する。
汚水逆流の事実もさることながら、巧みな文章表現が素晴らしいので、ぜひとも実際に味わわれることをお勧めします。
書き忘れたが、本屋での立ち読みも「一人笑いこらえ」のメッカ。
笑いにも趣味趣向があるけれど、この本を立ち読みしてもし肩がプルプル震える快感を味わえたのであれば幸い。そのままレジに直行して頂きたい。
「美女と野球」/リリー・フランキー/河出文庫
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