「しをんのしおり」三浦しをん

ああ妄想とは素晴らしきかな!
小説家の筆者が日常身辺のことを書き連ねたエッセイ集なのだが、その日常度が半端ない。
まさに身の回りのことである。ときどきアクティブに移動することもあるのだが、基本的に、生活感あふれるエリア内で、ひたすら妄想して広げられた世界を中心に繰り広げられる物語。言ってみれば、「何も起きない」。
これは褒め言葉である。
ビッグイベントなどなくとも、楽しいことはそこらじゅうに散らばっているのだ。
そこらじゅうに散らばる楽しいことを、独自の鋭い感性で拾い、紡ぐ。
そんな中、アクティブな行動もあり、具体的には、友人たちと京都へ行く話があるのだが、いやいや、これも圧巻。
京都まで行ったというのに、京都の何が語られるわけでもなく、道中での友人たちとの会話がひたすら描写される。内容はと言うと、京都とも寺とも何の関係もない架空の戦隊モノ、その名も、
「超戦隊ボンサイダー」。
ひょんなことからこの謎の戦隊ヒーローの話に花が咲き、これもまた架空の博士とか出てきて妄想の世界にずぶずぶとのめり込んでいく。
あー、いいな、すごくいい。
旅行に行って最も贅沢を感じるのって、案外「自宅でも地元でもできることを、あえてそこでやる」だったりする。こんな妄想何の役にも立たない、そんな暇があれば名物の一つでも多く味わえばよいのだが、だからこそ、それをそこでやるのが贅沢だったりする。一秒でも惜しいとばかりとせわしく歩き回るツアー客を横目にね。うー、リッチ!
しかも妄想なんて、なんのコストもかからない、不況にも住宅事情にも強い、まさに「どこでも出来るだろ!」じゃないですか。
これぞ真の贅沢、究極の遊び。まずはその空気だけでも味わわれたし。
しをんのしおり/三浦しをん/新潮文庫
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