「ホットドッグの丸かじり」東海林さだお

東海林さだおの名物エッセイシリーズである「丸かじりシリーズ」の一冊。
毎回ある食べ物について6ページ読み切りで書かれるエッセイなのだが、このシリーズの最大の魅力は、本当にあらゆる食べ物に平等に光を当てている点である。この「ホットドッグの丸かじり」も、中には3000円お好み焼きや3000円ラーメンといった高級料理(?)もあるものの、お新香、切り干し大根、ふりかけ、茗荷、といったように、ある意味で地味な食べ物も平等に扱っている。
そして、その視点は常に愛とユーモアに満ちている。全ての食べ物に対して、それらが個別に持つ魅力を、読んでいる側が思わず食べたくなるくらい巧妙に描き出しているのだ。
さて、そんな一冊だが、今回はこの中の一篇「バター醤油かけごはん讃」に光を当てる。
始まって早々、
「世間では、ラーメンライス、生卵かけごはん、バター醤油かけごはんを三大いいかげんめしとして馬鹿にしている。」
と読者を試す。皆さんご存知か、これらを。
私は知らなかった、三大いいかげんめしの定義がどうこうではなく、「バター醤油かけごはん」の存在を。私のようにビーフステーキやフォアグラを主に食して育った者にとっては、・・・というわけではなく、ラーメンライス、生卵かけごはんに関しては残念なぐらいの大ファンである。
もはやライスなしのラーメンなど考えられず、ライスを食べないような人こそわざわざ「ラーメンライス、ライス抜きで」と注文するルールにしてほしい、それくらい標準としてラーメンライスな私である。(ただし「生卵かけごはん、ごはん抜きで」はまた話が変わってくるので注意。)
だが知らない!バター醤油かけごはんを知らないことは非常にプライドが傷付くのだ!
そこで、ここに載っているレシピを試してみた。これを以て、明日からは素知らぬ顔で「バター醤油かけごはん?常識でしょ」と言い放ちたいと思う。
以下食事を再現。
温かいごはんの真ん中に穴を開け、そこにバターの塊を投入し、再びごはんで穴にふたをする。そうして50秒待ち、ごはんのふたを開けると、おおっ、さっきの塊がもうトロットロにごはんと混ざり合っているではないか!
ホカホカのごはんから湯気が上がり、たちこめるバターの香り。そして醤油の出番、これから食べるところにちょっと醤油をたらす。醤油の香ばしさとバターの香りが混ざり合う。うう、がまんできない、そこのところを箸に乗せ口に運ぶっ。ああっ、とろけるバターと醤油のコンビネーションが口の中ではふはふ、ああっもうとろける、めちゃくちゃにしてっ!
・・・取り乱した、失礼。
あー、書いてたらまた食べたくなってきた。こんな風に、庶民のC級グルメの強い味方でもあるわけです。おいしい本。
ホットドッグの丸かじり/東海林さだお/文春文庫
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