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「ニューヨークのとけない魔法」岡田光世

ニューヨークのとけない魔法

以前私が友人3人との計4人でニューヨークへ旅行したときのこと。

街の中でみんなで写真を撮ろうとしていた。みんなでと言っても全員では写れないので、3人がポーズを取り、1人がカメラを構える。まあ、1人が写れないのは仕方ない。・・・と、そこに通り掛かった黒人のお兄さんが笑顔で何か言いながら近寄ってきた。
お、ひょっとして4人で写れるように、写真を撮ってくれるのかな、なんて親切な!

・・・と思いきや、そうはいかない。寄ってきた彼はカメラ係を代わってくれるのではなく、ポーズを取っている3人のほうに紛れ込み、そのまま一緒にポーズを取る。フレンドリーに肩を組んだところで彼はシャッター待ち。予定通りカメラ役の友人は写真を撮り(撮らされ?)、陽気に写った彼は「バイバイ」と言いながら去っていったとさ・・・。

私がニューヨークを経験したのは計たったの2週間ほどなんだけれど、上記の他にも、地下鉄のホームで隣に立っていただけなのに笑顔で世間話を持ちかけてきたオバチャンや、バスの中で、降りる駅が分からずに地図を見ながら慌てていた私に、横から親切に「次で降りろ」と教えてくれたオジサンなど、短い期間にも街で出会った人のちょっとした温かさに触れる機会はたくさんあった。

と言っても、人情に溢れた温かい街、と言うのとはちょっと違う。さすがに大都会、冷たさや孤独感もある。人を信用するばかりではバカを見ることもあるだろう。「またね!」なんて言っても、道で偶々出会って会話を交わした人とこの大都会で偶然再会する確率なんて0に近い。
でも、お互いがそんな境遇にあることを知っているからか、時折見られる気遣いやお節介には笑顔と思いやりが溢れ、爽やかな風のように心を通り抜ける。この距離感がなんとも心地よい。

前置きが長くなったが、本書は、ニューヨークと東京を行き来しながらの生活を続ける著者による、そんなニューヨークでの人との刹那の触れ合いを綴ったエッセイだ。雑談を始める電話オペレータや、通行人に店番を任せるホットドッグスタンドのオッサンなどなど、話題は尽きない。

収録されている殆どが2ページほどの短いもので、(なかには連続ものもあるが、)これがそのまま、まさに「日常の一コマの、たった数分の温かい触れ合い」を表しているようで小気味いい。詳細は控えるが、特に傑作と思えるのは最後の一篇「二三人の乗客のプロポーズ」。わずか2ページプラス1行だが、この短さで、こんなに優しく爽やかな気持ちにさせてくれた話を私は知らない。

私の滞在はわずか2週間だったが、あのとき感じた爽やかなニューヨークが、そのままここには続いている。まさにとけない魔法にかかったよう。心がニューヨークに引き戻される。あーまた行きたいっ。


ニューヨークのとけない魔法/岡田光世/文春文庫
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