「えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経」笑い飯哲夫

漫才コンビ「笑い飯」の哲夫による般若心経の解説。
この試みは冗談でも何でもなく、普段から写経の習慣がある方らしい。
・・・とは言えそこは笑いのプロ、解説の中に常に笑いを散りばめており、全く飽きさせない。
いろんなところから幅広く例えを出してくる手腕はすごいなー。
ヘタな学者と違い、目線が我々一般人と対等に揃っているのもいい。分からない言葉が出てきたら辞書で引きながら、独自のたとえを駆使して、一つ一つ分かりやすく説明してくれる。決して偉ぶらない。(そもそも偉ぶる人は笑い取れないからね、そこはさすがのプロ。)
ところで勝手に目からウロコしたのが、「笑いと悟りの共通点(?)」のようなものがうっすらと見えたこと。読んでいて感じたことなのだが、笑いが持つ「常識を突き抜けた感じ」が、例えば禅問答が持つエネルギーと非常に似ているのだ。
例を挙げるとこんな感じだ。
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他人の靴下のにおいをなくしてくれるのが、般若心経です。
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・・・もちろん突然これが出てくるわけではなく、きちんと前フリがあるわけなのでその点を味わいつくすためには本書を読んで頂きたいのだが、いずれにせよ、この潔いエネルギーはすごい。
しかしなんとも面白いのは、他の宗教はこんな言葉を受けると「冒涜だ」とでも言いそうなものだが、仏教はあっさりと「その通りだ」と受け入れそうなところ。それどころか「それが悟りだ」くらい言ってくれそうな気さえする。
なんか、あーだこーだ言ってないで笑い飛ばしてしまいましょう、みたいな。
そんなことを考えながら、巻末の投げやり(?)な人生相談を読んでいると、やたら深遠な内容に感じられてくるから不思議だ。深読みしすぎか?
・・・ま、いずれにせよ、人生なんてそんなもの。細かいことに苦しんでいないで、笑い飛ばしてしまいましょう。良書です。
※タイトルの「えてこ」は「サルの子供」のこと
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「自由訳 般若心経」新井満

著者のことは初めて知ったが、作家、作詞作曲家、写真家など幅広く活躍されている方で、数年前にヒットした「千の風になって」を作詞作曲(元はアメリカの詩らしく、正確には「翻訳」だが)した人でもあるらしい。
そんな著者による「般若心経」の「自由訳」。
まさに自由訳の名の通り、分かりやすい飾らない言葉で訳されている。より分かり易くするために、言葉もたくさん足されている。加えて、ところどころに挿入される写真も美しく、「般若心経」というおそらく一般的にはとっつきにくいイメージとは裏腹に、絵本のようにすっと入り込めると思う。
そんな絵本のような本編は、ただ文字を追うことを目的とするなら速い人なら5分も掛からないと思うが、いやいや速読なんぞを目指さずにゆっくりじっくり読みたいところ。
ところで、その本編が終わった後に、「「あとがき」に代える十二の断章」というのが始まる。
はじめは「般若心経の後にあとがきなんて・・・」と思って読み飛ばそうかとも思ったが、読んでよかった。実は本編より感動的だった、と言ったら著者は複雑な気持ちになるだろうか?しかし、この部分の存在こそが、ここで本書を大プッシュしたい理由である。
リレハンメルオリンピックの閉会式のセレモニーにおいて行われる次期開催地(長野)のデモンストレーションの総合プロデューサーを務めていた著者。本番が近づき、会場に向かうためにノルウェー行きの飛行機に乗る予定だった著者の下に届いたのは母危篤の知らせだった。その後の展開はまさに「事実は小説より奇なり」と言うしかない。あとがきで泣かされてしまったことなど滅多になく、またこれが般若心経の中で言われる「すべてのものごとは繋がっている」ということなのだろうかと嘆息した。
これを読み終わったあと、思わず本編ももう一度目を通した。(そうするとまた違う見え方がした気がするから不思議だ)
ということで、ぜひ読んで頂きたいです。もちろん「あとがき」まで忘れずに!
自由訳 般若心経/新井満/朝日新聞社
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